2014年に発売されたベストセラー
「フランス人は10着しか服を持たない」(ジェニファー・L・スコット著)。
フランス人貴族の家にホームステイしたアメリカ人女性が、
その質素だけど上質な衣食住について感動したことを書いた本です。
「フランス人は10着しか服を持たない」
のフレーズは、本文の中に出てくるもので、突き詰めれば色々と誤解はあるようなのですが、
とにかくなんだかタイトルだけが一人歩きしてしまった感じですよね。
実際その貴族のマダムは、
季節ごとに10着ほどの服をじょうずに着回しているということだったのですが、
それだとなんだか、ふつう。
タイトルで言い切っちゃったモン勝ちという感じですね。
「フランス」とか「パリジェンヌ」とか言うと、
日本ではムムっとひっかかりがあり、売れるので、この他にも、実際住んでみると絶対そんなことないのに、
フランスのおしゃれなイメージや、良いところばかりを取り上げた本も多いです。
とはいいつつも、私もフランス人のファッションセンスには色々思うところあり、
彼女たちは本当に服を10着しか持っていないのか?
もしくはワードローブが極端に少ないのか、友人たちに聞いてみることにしました。
答えはシンプル「人による」
私の聞き取り調査が及ぶ範囲はといえば、貴族とまでは行かないけれど、
ちょっとリッチな50代の奥様から、まだ親掛りの女子大生まで。
フランスの大学生は勉強が大変で、なかなかアルバイトをする時間もないですし、
また、気軽に働けるようなシステムもないのでたいていお金はありません。
それでもチープなお店やフリーマーケットで買ったり、
親戚中でプレゼント交換をするクリスマスなどにリクエストしたり
と工夫して、おしゃれにしています。
日本でこんな本が流行っているけど、あなたは何着持っているかと聞けば
「10着ということはないと思うけど、そういうのは人によるでしょ」
とシンプルなご回答。
50代マダムは、ひとりリサイクルショップが開けそうな衣装持ちもいれば
「最近コンマリを読んだ(近藤麻理恵さんの断捨離本の英訳)」
と、
服や持ち物をすっきり片付けて、ほんとうに10着くらいしか持っていないような人も。
毎日子どもの送り迎えで顔を合わせるママ友は、聞かずともおおよその傾向がわかりますが、
冬場など、後ろ姿ですぐ誰かわかるのは、毎日同じコートを着ているから。
これは1着しか持っていないというよりは、
子どもを学校に送り出しながら自分も出勤という忙しいママたちの、
いわゆる制服化だと思います。
朝、ゆっくり服を選んでいる暇なんてありませんからね。
ママだけでなく、私服がパターン化している人もよく見かけます。
服を選ぶ時間がもったいないというスティーブ・ジョブズ並みの理由で、
黒とグレーしか着ないという人も。
まあこうして色々な人の話を聞いて見ると、若い頃は色々なものを着てみたいものですが、
ある程度年齢を重ねると、物欲が減少するというか、欲しいものが決まってくるのでしょうね。
「10着しか〜」に登場するマダムも、年とともに自分の似合うものがわかってきて、
ムダな買い物をしなくなった結果、
質の良い数着のお気に入りが残ったということではないでしょうか?
これはフランス人でなくても皆傾向がありますよね。
フランスのゴージャスフリマサイト
(画像引用:公式HP http://www.videdressing.com/)
パリ暮らしといっても、私のような生活圏、友人関係だと、
なかなかゴージャスな方々のワードローブなどのぞく機会もないものですが、
どこかにはいるはずのおしゃれ好きさんが、こぞって出品する人気フリマサイトがあります。
Vide dressinng(ワードローブを空っぽにするの意味)というもので、
日本だとメルカリのようなものしょうか?
品物はH&MやZARAなどお財布にやさしいブランドから、
シャネルやディオールなどのハイブランドまで揃っていて、見ているだけでも楽しいサイトです。
たくさん出品している人たちというのは、自分のワードローブを公開しているようなものですし、
「フランス人は本当に服を10着しか持っていないのか」
検証するにはピッタリかと思いますが、まあこんな人たちが、
シーズンに10着しか持たないわけがない… のか、
良いものを買って短期間着て、まだ新しい状態でフリマで売り、
また新しい質の良いものを買うというサイクルであれば、意外と手持ちの服は少ないのか。
いずれにしても、こんな良い循環でおしゃれを経済的に楽しめるなら
、手持ちを10着におさえる以上の効果があるかもしれませんね。
ファッションの都は一般人には関係ない!?
フリマサイトが盛り上がっているという理由のひとつに、
フランスのファッショントレンドの流れがゆるやかだということもあげられるかもしれません。
1,2シーズン前のものでも充分着られますし、日本のそれよりもはるかにゆるやかで、
季節ごとにみんなだいたい同じ格好をしているようにも見えます。
パリのファッションスナップの仕事をすることがありますが、素材や、
微妙なシルエットなどにゆっくりとした流行りすたりはあるものの、ほんと毎年同じだなと思うことが。
「春はトレンチ、夏バレリン。秋は巻きもの、冬ダウン」と節をつけて言いたくなるんです。
真冬のブーツの季節が終わり、春が来ると一斉にみんなバレリン(バレーシューズ)を履き出します。
スリムのジーンズにペタンコバレリン。
上を見れば長短の違いはあれど、トレンチコートが6割くらい。
数年前まで夏になるとよく見かけた、ロングの白いふんわりスカートはさすがに最近はすたれたのでしょうか。
そして秋には新しいマフラーやショールなどで気軽に流行を取り入れて、
11月から3月あたりは地下鉄の中など黒のダウンコートばかり。
おしゃれにうとい私なんぞにこんな言われ方をするとは、
ファッションの都パリもたいしたことがないようですが、
まあここまでは庶民もしくはブルジョワでも洋服に興味のない人の話。
パリコレシーズンなどに会場近くをうろつくと、さすがにハッとするほどおしゃれな人ばかりです。
モデルやファッションエディターなど、
雑誌で見るようなこなれたコーディネートの方々が一堂に会してお茶してたりするのです。
そういう人々を間近で見ると、やはり、違う!
でも、庶民レベルのおしゃれでも、そこは頭が小さく頭身バランスの良い西洋人。
たいてい何を着ても似合ってしまうので、それなりにおしゃれに見えてしまうものなんですね。
でもこちらだと、ファッションを生業としている人と、そうでない自分とは違うという、
はっきりとした線引きというか、自覚が一般人にあるように思います。
バカンスに行ったり、趣味につぎ込んだり、お金を使う先はたくさんあるけれど、
収入は限られている。それなら洋服などは、
自分に合った、着心地の良い数着があれば満足、
というところではないでしょうか。
ワードローブの買い足しも、多くの人は夏と冬のバーゲン時期までじっと待ちます。
子ども服は大人のコピーのよう
そんな大人のファッションを見て育つ子どもたち。
特に女の子は、ママみたいなおしゃれがしたくてたまりません。
日本の子ども服に比べると、フランスのものは、
大人用のデザインがそのままミニチュア化したようなものが多いように思います。
というわけで、子どもの世界の流行や季節感も、大人といっしょ。
3歳くらいから、スリムのジーンズにコンバースをはいていたり、トレンチコートの襟を立てたりしています。
そして、そんな小さいパリジェンヌたちの憧れがバレリン。
早く、甲の部分にゴムが渡っていない、大人っぽい本物のバレリンをはきたいのですが、すぐに脱げてしまうし、
足の成長にもどうかというので、小学校に入るまではたいてい親に却下されてしまうのです。
バレリンの季節が終わればそろそろ夏。夏休み前にある、女の子たちのサンダルXデーは、
季節感の薄いフランスでも、夏の訪れを感じます。
6月に入ると、子どもたちが一斉に新しいサンダルをおろして来る日があるんですね。
今日は暑くなるぞ!っていう日に、
待ってました
とばかりにみんながご自慢のおろしたてサンダルをはいてくるのを見ると、こちらまでウキウキしてしまいます。
そういえば、以前一時帰国で娘を日本の学校に入れてもらったとき、素足にサンダルで学校へ行ったら、
先生から「靴下をはいてきましょう」とご注意が!
確かに日本の気候だと、靴下無しでは気持ちが悪いかもしれません。
クーラーの普及していないフランスは、薄着になることでしか暑さをしのぐことができないので、
夏場の幼稚園児や小学生はほとんど裸みたいな格好です。
そういう傾向は女子中高生になっても引き継がれていきますが
、中学生くらいになると、みんなほとんどスカートをはきません。
フランスは、一部の私立校をのぞいて制服がないのですが、スリムのジーンズが制服のようにはかれています。
現在大統領候補としていちばん人気のマリーヌ・ルペン女史ですが、
この方の公約に「中学校と高校を制服化する」というものがあるのです。
自由な服装で育って来たフランスの子どもたち、もしこの公約が実現したら、一体どんな反応を示すのでしょうか。
それにしても、のイメージ本
「フランス人はXXだ」というようなフランスのイメージ本、定期的に出て来ますよね。
最近では「フランス人の部屋にはゴミ箱がない」などなど、そのたびに在住者の中では小さなどよめきが起こるのです。
自分自身もこんなフランス発的記事を書かせていただいていていながらなので自戒を込めて、
よそさまの国のことを、自分の半径5メートルの出来事で判断しないよう、見たこと感じたことに迷いを感じつつ、
できるだけ最新のニュース記事などを合わせて読みながら事実に近いことを書きたいなとは思うのです。
フランスに限らず「〇〇人はXXXXXだ」「〇〇人はXXXXXXしない」的にバサっと言い切るのはちょっと乱暴な気もしますし、
日本でもどこの国でも同じでしょうが、全員が同じ傾向を持っているわけはないのだし、
でも本のタイトルなどでは、面白いキャッチーな傾向を言い切ったもん勝ちなのが歯がゆいです。
私が10年暮らしてみて、いま思うフランス人の傾向は「自信家で、ちょっとウソつきだが後くされはない」かな…
いやもうこれも、もちろん個人差があります。病的に嘘つきな人から、天然で、無害なウソつきさん。
ウソなんかつかずにきちんとしている人もいますし。
こちらも傾向がわかって来たので、自分に害を及ぼさないウソならもう笑って聞き流せます。
が、いちばんいやなのは家に出入りする業者など。
何日の何時に来ます、と決めてあるのに来ない。
連絡しても電話にも出ない。
あげく全く関係ない日にふらっと来て、こちらが「なんで約束の日に来なかった」と問えば、約束なんてしていない!と言うとか。
「子どもか!」と言いたくなるようなウソ…
自分の意見に自信がある人が多く、それこそものごとをひとつの見方から断定するので、
フランスに来たばかりの日本人など、日常的にも振り回されることが多いですし。
うっかりするとその人の発言をフランス人の総意のように受け取ってしまい、日本人社会で自分がデマ発信源になる恐れも。
そんなこんなで、この10年の間にも、色々な痛い目にあっている私。
もしかしたら先の「10着マダム」本の著者のように、短期滞在のほうが、フランスに良い印象を持ったまま帰れたかもしれません。
とはいえ、私のようなよそ者にも、懐の深い対応をしてくれるフランス。
そこに住む人たちも、日本で伝えられるイメージのような人々では全然ないとは思うけど。
どん臭くて自己チューで、おしゃれな人もいるけど体感的にはそうでない人がその100倍くらいなフランスを、
内側から見て愛おしいと思えるようになりました。
この本の著者が、私と同じように長年フランスに滞在したら、どんな本を書いたでしょう。
憧れるような面だけでなく、フランスの裏の顔についてもぜひ書いていただきたいところです。
最新情報をお届けします