「夫婦はひとつ布団、ひとつ財布」これがうまく行く秘訣だと、
日本で会社員をしていた頃、上司が言っていました。
若かったし、結婚なんて考える相手もいなかった頃ですが、この言葉がどーんと刺さった私。
布団はともかく、財布(家計管理)はもっともだと思い、
20年以上たったいまでも覚えているのですから相当のインパクトです。
Contents
夫婦はひとつ財布のはずなのに!?
ところがフランスに住み始めて、どうもみなさんそうでもないらしいことに気づきました。
きっかけは、数年前に再婚して、前夫との間の子どもを育てているフランス人の友人。
ほぼ無料の大学ではなく、私立のグランゼコールに進学したお嬢さん、やはり学費がものすごくかかるのだとか。
そんな話をしていたときに、彼女が二度目の夫について「彼は経済的な面でだいぶ助けてくれている」発言をしたのです。
え?でも再婚したんだから、助けるとかそういうことじゃないでしょ?
と思う根っから「ひとつ財布」思考の私は、なんだかそのよそよそしい(と私には思える)間柄に違和感を覚えました。
また、ある日本人女性とフランス人男性のカップルがマンションを購入したときは、
頭金も、月々のローンも折半して同じ額を払っていると聞き、夫と妻の収入に倍ほども格差があるのに、なんで!?
とこれまたよその家庭のことながら歯ぎしり。
産後しばらく専業主婦をしていた友人に至っては
「うちの夫はやさしいの。自分の口座のクレジットカードを私のために1枚作ってくれたのよ〜」
と夫自慢。
ちょっとちょっと、結婚したんだから、そんなの当たり前でしょうよ、と意味不明でした。
でも、こういう感覚が珍しくないのがフランスのカップルの家計管理術だったのです。
お財布は、ひとつどころか3つある?
まず、女性の就業率が8割を超えるフランスでは、カップルはほとんどが共働き。
数年前の銀行の調査では、夫婦の共同名義の口座を作っている人が半数以上いたようですが、
もちろんそれぞれに自分だけの口座も持っているます。
夫も妻も、それぞれの収入を把握はしていても、それを合わせてひとつの家計に、という考えは多くないようです。
公共料金や家賃、住宅、車のローン、子どもの教育費など、家族のお金を出し入れする共同口座に、
それぞれが収入の一部を入れて、その他の出費はその都度どちらかが支払います。
いっしょにレストランに行って食事をしても、夫婦なのにおごりおごられの不思議な光景も…
日本でももしかしたら最近の若い共働きカップルの感覚は、フランス人に近いのかもしれません。
でも、まだまだ結婚退職、産後などに退職して専業主婦になる女性が主流だった私の世代は、結婚=養ってもらうもの。
妻がいくらか稼いだとしても、それはプラスアルファの家族のお楽しみ分使うものだったはず。
むしろ、妻がお財布の紐を握っていたほうがうまくいく、くらいに思っている人が大半なのでは。
日本は世の中的にもまだまだ「お父さんのお小遣いはいくら?」なんていう質問がふつうにありますが、
それはつまり、お父さんの稼いだものは、家族のもの。
自分の稼いできたお金であっても
「そこからお小遣いをいただく」
というのは、日本人男性も男性も、渋々ながら納得、のシステムなはずですよね。
フランス人男性だったら、何かを買うための自発的な節約ならまだしも、なかなかこういう犠牲的精神は理解できないはず。
この辺り、文化が違うとはいえかなり大きな溝を感じます。
もちろん、夫がフランス人、妻が日本人で、専業主婦の妻を扶養している男性もいますし、
配偶者が外国人ということに限らず、妻が働かなくても食べていける層では専業主婦を選択する女性もいるので、
お財布をひとつにしている家庭が全くないわけではありません。
結婚の際の契約書「コントラ ド マリアージュ」
フランスでは、結婚の前に多くのカップルが
「コントラ ド マリアージュ」
という二人の財産に関する結婚の契約書を交わします。
公証人の事務所に行って、数百ユーロを支払い、その書類を作ってもらうのですが、
これは離婚の際に財産分与でもめないように、はじめから
「結婚前の財産は別々に管理」「結婚後に所有したものは共有する」
など、夫婦のお金のことについて取り決めをするものです。
昨年「L’economie du couple (カップルのお財布事情)」という映画が公開されたのですが、
内容がまさにこの離婚にまつわる経済的な問題。
夫婦が子どもと住んでいる家は妻が購入したもの。
でも購入時に全面リフォームをしていて、その費用を払ったのは夫。
というわけで、離婚しようにもできない、離婚してもいっしょに住まないといけない!
ということになった二人がその後どうなるか、というストーリーなんです。
まあそんなドラマチックかつ笑える?
状況はそう多くないとしても、都市部では離婚率が50%ほどと言われるフランスなので、
離婚に関するいざこざは頻繁に見聞きします。
結婚生活が長いほど、コントラ ド マリアージュですっきりとは片付かないものも多くなるでしょうし、
この契約書を作らずに結婚する人も増えているそうなので、この制度もいつまで効力を発揮できるのか。
ただこの契約書、結婚前に、自分たちに必要かどうかを考えるだけでも、
今後の家計管理の仕方をカップルで考える良いきっかけになることは事実。
たとえ愛し合っていても、生活はまずお金!そしてそのときは幸せいっぱいでも、結婚生活に終わりが来るときもある、
そんなことを覚悟しながら新婚生活のスタートを切るフランスのカップルは、
「幸せにするよ♡」「幸せにしてね♡」
な日本のカップルと比べると、ちょっと冷めて見えるかもしれません。
子どもの頃からお金の話
私がフランスに住み始めた頃、周りの適齢期の友人を見ていて驚いたのが、お金に対しての赤裸々発言の数々でした。
最近お父さんを亡くしたA君のことを「あいつラッキーだよ。
遺産でマンションのローンを完済したんだって」なんて言うB君。
日本人だったら、もしおなかの中でうらやましいと思ったとしても、絶対友達の前で口には出さないでしょう。
というより、人の生き死にで入ったお金のことを、そんなふうにラッキーととらえられる自己中加減に引いちゃいますね…
またC君にいたっては、つきあっているD子について
「結婚してもいいけど、実家の評価額はいくらくらい?」
などと聞いてきたそう。
この辺り、C君が特にお金にうるさいというわけでもなく、
結婚を決める際、割と多くの人が考えていることなのだと、数年経ってわかってきました。
日本だと、こんな話、若いコが気軽な仲間内でしませんよね?
フランスでは披露宴の費用もほぼ自分たちもちなので、カップルのお金の問題は、結婚前から始まっているのです。
そして、年齢をもっと下げると、フランスの小学生はさらに赤裸々。
「XXちゃんは、赤ちゃんのときにケガをして、その補償金が貯金してあるんだって。いいな〜」
なんて言っている子もいるかと思えば
「ぼくの家はおじいちゃんがお金持ちだから、毎月1000ユーロくれるんだよ」
と税務署に連れて行きたくなるような子まで。
ただこれが、ただの子どものたわごとでもなく、事実だったりすることもあるので、
なんで子どもにそんな話を? と思わなくもありません。
でもフランスの家庭の多くは、お金のことに関して、子どもにもきちんと話す必要があるという考え方のようです。
中学生くらいでも、見ているとやはり同じくらいの経済状態の家庭の子同士でつるんでいたりしますし、
自分の経済的なポジションを知ることで、背伸びすることもなく、楽しく日々を送れるなら幸せです。
家計管理の先にあるものは…
結婚して居を構え、子どもを持ったりバカンスに出かけたり、日々の生活が安定していく中で、
フランス人カップルの次の目標はなんでしょう?
マイホームだったり、車だったり、老後の生活資金だったり、日本とほぼかわらない項目が上がるはずです。
が、違うのは、貯蓄の意識が高い日本と、そうでないフランス。
これは私の周りにいる人々というより、
ほぼ国民性と思っていいのではないかと思うのですが、フランス人て貯金をあまりしません。
最低賃金で働く人も多いので、そうなると貯金どころではなく、日々の生活でいっぱいいっぱいということにもなりますが、
そうではなく、生活に必要なお金以上に稼ぐ層でも、自分の楽しみにお金を使う人が想像以上に多いことに驚きます。
ある新聞の調査では、少し生活にゆとりが出始める、都市部の月給2000€から2500€の層では、必需品でない衣料品や、
レストランなどの、言ってみれば娯楽に、月1000€弱を使っている人がことが判明。
家賃や公共料金などで1000€ほど出ていくことを考えると、
これでは全く貯金などできないはず。
また数年前には、20パーセントを超えるフランス人が、給料日前には銀行の残高がマイナスになる、という調査も。
フランスの銀行は、残高がゼロになったあとも数百€までのマイナス残高が許されている場合が多いのです。
とはいえこれって立派な借金なので、普通はちょっと抵抗があるかと思うのですが、
このシステムを、限度額までめいっぱい利用しているという人も少なくありません。
こんな感じですから、収入の少ない若いカップルなどはやはり、親の援助無しにマイホームを買ったりするのも一苦労。
マイホームを買おうと貯金をするよりは、家賃の安い公営住宅などに応募するほうを選ぶかもしれません。
夫婦で協力して、ふだんの生活を切り詰めてまで貯金をしようという気持ちも起こりにくいのではないでしょうか。
また、本当に生活に困ったら、社会保障にたよるのも一手。
日本はそういうことを恥ずかしいと思ったり、
手当を受けている人に冷たい風潮がありますが、生活苦で最悪の事態におちいるよりも、
国のお財布に助けてもらおうと思う、この辺りはフランス人の考え方に一理あるような気がします。
結婚してもひとり
フランス人カップルのお財布事情から思うこと。
結局、フランス人にとって、特に女性にとっての結婚は、生活の保障などでは全くないのですね。
「健やかなるときも病めるときも」互いに助け合う、という部分はあると思います。
が、経済的には一生自分の足で立っていることが必要。
これって、家事育児の負担が大きくなれば、体力的にも精神的にも、かなり厳しいことではないですか?
自由・平等・博愛が国のスローガンですが、働いて、とにかく生きねばならないのは男性も女性も平等ということでしょうか。
私などは、結婚したら家にいたい女性(男性も)は家で家事、育児をできるような生活保証があることがいちばんだと思っているのですが、
フランスは(最近では日本も)女性がかなり頑張らなければならない世の中になってきていますよね。
疲れている人も多いのでは。
もう半世紀以上前のことだそうですが、フランスでは、仕事をして寝るだけの生活に対して
「Métro, boulot, dodo メトロ、ブロ、ドド」という広告コピーが生まれました。
メトロはおなじみ地下鉄のこと。
地下鉄に乗って会社に行き、ブロ=仕事をし、家に帰ったら疲れてドド(赤ちゃん言葉で、ねんねの意味)するだけ。
そんな毎日を自虐的に表したフレーズです。
仕事はそれなりに、帰宅して友人や家族と楽しみ、バカンスは田舎でのんびり… という、フランス人の理想からは遠いそんな毎日。
いまでは女性までもそこに参加しているんですものね。
おまけに家事や育児まで任されて。そしてフランスでは、女性はいつもセクシーでいることも望まれ…
と、結構、冗談じゃないわよ、と言いたくなるような世界です。
ほんとうにほんとうに、超頑張っているフランスの妻たち。
彼女たちのために、共同の財布、夫婦それぞれの財布のほかにもうひとつ、
使っても使っても減らない魔法のお財布が空から降ってきても良いくらいだと思う今日この頃です。
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